Passive Event Listeners によるスクロールの改善
Intro
DOM のイベントリスナの仕様に Passive Event Listeners というオプションが追加された。
このオプションは、主にモバイルなどでのスクロールの詰まり(Scroll Junk) を解決するために導入されたものである。
今回は、この仕様が解決する問題と、本サイトへの適用を解説する。
Scroll Event の PreventDefault()
画面のスクロールに合わせたインタラクションを実装する場合、Scroll Event にイベントリスナを登録する。
典型的な例では touchstart
や touchend
をフックし、その中で DOM の操作などを実施するなどがある。
場合によってはイベントリスナ内で preventDefault()
を呼ぶことで、スクロールそのものを止めることもできる。
実はこれが Scroll Junk の原因となることが非常に多いことがわかっている。
Scroll Junk
ブラウザは、単純なドキュメントであれば、そのスクロールがスムーズになるように最適化することができる。
しかし、Scroll Event にイベントリスナが登録された場合、そのイベントリスナの中で preventDefault()
が呼ばれる場合は、スクロールを止めなくてはいけない。
ところが、登録されたイベントリスナの中で preventDefault()
が実行されるかどうかは、実際にイベントリスナを実行してみないとわからない。
つまりブラウザは、Scroll Event にイベントリスナが登録されている場合、ハンドラの実行が完了し preventDefault()
が呼ばれなかったことを確認してからでないと、スクロールすることができない。
これが Scroll Junk が発生する原因となる。
影響
イベントリスナを実際に実行し、その処理が終わるまで preventDefault()
が呼ばれるかどうかわからないため、Scroll Junk がおこる。
つまり、Scroll Event に登録されたイベントリスナの実行時間が長ければ長いほど、Scroll Junk の影響が大きくなる。
Chrome は現在、実行時間の長いリスナが登録された場合、以下のような警告を devtools に表示する。
explainer.md#the-problem:1 Deferred long-running timer task(s) to improve scrolling smoothness. See crbug.com/574343.
ただし、イベントリスナの実行自体にも多少のオーバーヘッドがあるため、空のイベントリスナを登録しただけでも、ブラウザのスクロール最適化を邪魔するには十分であり、影響がでることも確認されている。
仕様には Scroll Event にイベントリスナを登録したサイトの中で、実際に preventDefault()
を呼ぶのは 20% 程度という調査結果が記載されている。
これは 80% のケースで、ブラウザがリスナの完了を待つことなくスクロールしても問題がなかったということを意味している。
Passive Event Listeners
もし、ブラウザがリスナを実行する前に、リスナが preventDefault()
を呼ばないことを保障できればこの問題は解決する。
この preventDefault()
を呼ばないリスナを Passive Listener と表現する。
そして、登録したリスナが Passive Listener であることを明示するのが、今回追加された passive
フラグである。
この値は、同じく今回追加された addEventListener()
の第三引数に渡す Event Listener Options で指定する。
document.addEventListener('touchstart', handler, {passive: true});
開発者がこれを明示的に指定することで、ブラウザはリスナが preventDefault()
を呼ばないことを前提とできるため、リスナの完了を待たずにスクロールすることができ、それを最適化できる余地が生まれる。
なお Passive Listener 内で preventDefault()
を呼んだ場合は無視されるため、呼んだとしても defaultPrevented=false
のままになる。
Listener 内で preventDefault()
を呼べるかどうかは、cancelable=true
となっているかどうかで分かる。
listener
cancelable
preventDefault
defaultPrevented
normal
true
cancel default
false - true
passive
false
ignored
false - false
Event Listener Options
addEventListener
の第三引数は、既に useCapture
として boolean が定義されている。
これが true
の場合は、イベントはバブリングフェーズではなく、キャプチャリングフェーズで発火されることになる。
Event Listener Options 対応以降は、ここにオブジェクトを渡すことになるため、useCapture
フラグ相当は、{capture: true}
としてプロパティによる定義を行う。
// before
document.addEventListener('touchstart', handler, true);
// after
document.addEventListener('touchstart', handler, {capture: true});
引数をオブジェクトにしたことにより、フラグの追加に対して開いた設計となるため、ここに Passive フラグを付け加えることができるわけである。
今後リスナに対する新たなオプション(ブラウザが実行前に知りたい内容)を追加する場合にも、同様に追加が可能となる。
Feature Detection
引数をオブジェクトにした結果、Passive 用に引数を追加するよりも柔軟な設計となったが、互換性の問題が発生してしまう結果となった。
これは {passive: true}
は JS としては truthy であるため、第三引数が Event Listener Option に対応してないブラウザにおいて単に useCapture
を有効にしたと解釈されてしまうためにおこる。
例えばキャプチャリングフェーズでの補足を false
にする指定を Event Listener Options で指定した場合、古いブラウザでは意図に反して useCapture
を true
にしたと解釈されてしまうのである。
document.addEventListener('touchstart', handler, {capture: false});
これを避けるためには Feature Detection が必要となる。
スペックにサンプルが掲載されているので、引用しコメントで解説を追記する。
var supportsPassive = false;
try {
// getter として opts.passive を定義して、addEventListener 内で呼ばれたことがわかるようにする
var opts = Object.defineProperty({}, 'passive', {
get: function() {
// 内部で opts.passive が呼ばれたら対応ブラウザ
// 用意しておいたフラグを有効にする
supportsPassive = true;
}
});
// 試しに適当なイベントを補足し、opts.passive が呼ばれるか試す
window.addEventListener("test", null, opts);
} catch (e) {}
function addEventListenerWithOptions(target, type, handler, options) {
var optionsOrCapture = options;
if (!supportsPassive) {
// 非対応ブラウザでは、他のオプションは全て捨て
// { capture: bool } の値を useCapture の値として採用する
optionsOrCapture = options.capture;
}
//
target.addEventListener(type, handler, optionsOrCapture);
}
DEMO
動作するデモを以下に用意した。
長いドキュメントで、touchstart イベントにあえて遅延を入れたデモを用意した。
ここに、Passive オプション指定の有無による挙動の変化を試すことができる。
ちょっと分かりにくいがキャプチャも載せておく。
touchstart イベントに時間がかかっているため、スクロールが詰まる。
スクロールが詰まらない。
Passive False
Passive True
本サイトへの適用
特に scroll event を使ってはおらず、また別途 passive にすることでメリットのある JS も無いため、現時点での採用は無い。
採用した場合はここを更新する。
Intersection Observer
Scroll にハンドラを補足するユースケースの一つに、画面のスクロール位置取得がある。
画面のどの分が表示されているかを scrollTop
などを用いて測定するような場面では、Passive Listener を指定する効果が予想される。
しかし、この場面により適した仕様として、要素の出現と位置をより効率的に取得する Intersection Observer という仕様が提案されている。
実装されれば、こちらを用いる方が Scroll を監視するよりも正確かつ効率の良い実装が可能となる。
本サイトでも追って解説を行う予定である。