Web Authentication API で FIDO U2F(YubiKey) 認証
Intro
Web Authentication(WebAuthN) API の策定と実装が進んでいる。
これを用いると、FIDO(Fast IDentity Online) U2F(Universal Second Factor) 認証が可能になる。
今回は YubiKey 認証の実装を通じて、ブラウザ API の呼び出しと、サーバ側で必要な処理について解説する。
DEMO
動作するデモを以下に用意した。
YubiKey での動作のみ確認している。
コードは以下にあり、今回の解説もここから抜粋している。
(あくまで API の流れを解説するためのものであるため、飛ばした処理もあり、本番利用に耐えうるものではない。)
YubiKey Login の動作イメージは以下。
WebAuthentication API
WebAuthentication API は、Credential Management API の拡張になっている。
- Credential Management Level 1
- Web Authentication: An API for accessing Public Key Credentials - Level 1
JS API としては、Credential Management API をそのまま使う。
しかし、ユーザが入力する PasswordCredential ではなく、FIDO U2F で生成する PublicKeyCredential を使う。
従って、基本的には YubiKey に限らず、FIDO U2F 対応の Authenticator であれば同じコードで動かすことができる。
この時ブラウザから Authenticator を起動する API と、その結果をサーバで処理する方法がこの仕様に定義されている。
サーバ/ブラウザ間でやり取りするバイナリは、なんらかの方法でシリアライズして送る。
今回は、Base64URL と JSON を用いるが、この範囲であれば別のフォーマットでも良さそうに思う。
また、Authenticator が生成する情報は一部 CBOR が利用されているが、その解説は省略する。
実際に仕様に基づき、コードの流れを解説する。サーバも JS に揃えるため Node で実装している。
公開鍵暗号方式
先に、ざっくりとした流れを解説する。
ユーザはまず Registration フェーズとして、YubiKey を用いて公開/秘密鍵のペアを生成しサービスに登録する。
ログインは Authentication フェーズとして、サービスが生成した乱数(challenge)を秘密鍵で署名してサービスに送り返す。
この署名をサービス側に保存した公開鍵で検証できれば、サービスはユーザを認証することができる。
以降 Registration/Authentication フェーズ 2 つに分けて解説する。
Registration
1. サービスに対して challenge (乱数)の発行を要求する
クライアントはサーバに username を送り、登録に必要な以下のような情報を要求する。
(ここではそのまま navigator.credentials.create()
に渡せる形でサーバから返している)
// https://w3c.github.io/webauthn/#dictionary-makecredentialoptions
const clientCredentialOption = {
rp: {
id: "labs.jxck.io",
name: "labs.jxck.io",
},
user: {
id: crypto.randomBytes(32) // 一意な値、username を元に生成しても良い
name: username,
displayName: username,
},
challenge: crypto.randomBytes(32)
pubKeyCredParams: [
{type: "public-key", alg: -7 /*ES256*/}
],
attestation: "direct",
}
重要なのは challenge で、この乱数に対してブラウザが認証をし、それをあとで検証する。
従って、これはセッションなどに保存しておく必要がある。
req.session.challenge = challenge
req.session.username = username // CAUTION!! this is only a sample
2. この challenge を元に navigator.credentials.create()
を呼ぶ
ブラウザは、取得した値を元に create()
を呼びクレデンシャルを生成する。
YubiKey を刺している場合は、ここでタッチを求められ、タッチすると Resolve される。
// create() PublicKeyCredential
const credential = await navigator.credentials.create({publicKey: option})
const {id, rawID, response, type} = credential // type = "public-key"
const {attestationObject, clientDataJSON} = response
type は "public-key"
になっており、生成した鍵ペアの公開鍵が入っていることがわかる。
response の中がそうした値になっており、attestationObject は CBOR でエンコードされている。
中身はサーバで解読するため、そちらで解説する。
基本的にはこれをそのままシリアライズしサーバに送れば良い。
3. サービスは中身を確認し、ユーザに紐付けて保存する。
送られてきた clientDataJSON を JSON パースする。
以下を確認する
- clientData.type が "webauthn.create" である
- clientData.challenge(base64) が最初に送った(session に保存した) challenge である
- clientData.origin がサービスの ORIGIN と一致する
- clientData.tokenBinding が正しいこと(今回は使ってない)
次に attestationObject を CBOR パースする。
ここには以下のようなデータが入っている。
{
fmt, // attestation statement format
authData, // authenticator data
attStmt, // attestation statement
} = attestationObject
ここまで確認したら、clientDataJSON (バイナリ) を元に SHA-256 を取得しておく。
const clientDataHash = crypto.createHash("sha256").update(clientDataJSON).digest()
これはあとで署名の検証に使用する。
fmt の値によって、署名をどのように検証するかの処理は変わってくる。今回は 次に authData はバイナリで以下のような構造になっている。
まず rpidHash は、サーバが提示した RPID の SHA-256 であることを確認する。
flags は 1byte を 1bit づつフラグとして使っている。
UserPresent/UserVerified は、ユーザが Authenticator にインタラクションをした、つまり YubiKey をタッチしたため、どちらも 1 であることを確認。
sigCount は署名をした回数で、認証時に利用するため、保存しておく。
flag の AttestedCredentialData が 1 なので、sigCount より後ろを AttestedCredentialData としてパースする。
credentialPublicKey は、さらに COSE という形式でエンコードされている。
これは JOSE の CBOR 版といった位置づけである。
CBOR でパースすると以下のように数字がキーのオブジェクトが得られる。
これにより、YubiKey から受け取った PublicKey が、EC2 で P-256 を使い認証は ES256 (ECDSA with SHA-256) であることがわかる。
ExtensionDataIncluded は今回 0 なので拡張は無し。
fmt
"fido-u2f"
で解説する。
authData
{
1: kty=2, // EC2 key type
3: alg=-7, // ES256 signature algorithm
-1: crv=1, // P-256 curve
-2: x, // x-coordinate as byte string 32 bytes in length
-3: y, // y-coordinate as byte string 32 bytes in length
}
attStmt
今回の fmt では attStmt は以下の構造になる。
8.6. FIDO U2F Attestation Statement Format
u2fStmtFormat = {
x5c: [ attestnCert: bytes ],
sig: bytes
}
x5c には Attestation Certificate が仕様上、丁度 1 つだけ入っている。
attCert = x5c[0]
sig は Attestation Signature の値だ。
ここまでの情報を元に、実際に署名を検証していく。
Verification Procedure
先程 COSE から取得した x と y を連結し、先頭に 0x04 を加えると PublicKey になる。
PublicKeyU2F = 0x04 || x || y
これと、rpidHash, clientDataHash, credentialId を連結し、先頭に 0x00 を加えると、署名対象のデータが得られる。
verificationData = 0x00 || rpIdHash || clientDataHash || credentialId || publicKeyU2F
これを x5c から取り出した attCert で署名した結果が sig と同じになるかを確認すれば良い。
x5c は ANSI X9.62 Public Key Format というバイナリ形式で、Node では PEM でないと扱いにくい。
これは base64 でシリアライズし 64 文字で改行し、ヘッダとフッタをつければ一応 PEM になる。
const certificatePublicKeyPEM = [
"-----BEGIN CERTIFICATE-----",
...(attCert.toString("base64").match(/.{1,64}/g)),
"-----END CERTIFICATE-----",
].join("\n")
これを用いて検証する。
const verified = crypto.createVerify("sha256").update(verificationData).verify(certificatePublicKeyPEM, sig)
これが成功したら、証明書のチェインをルートまで確認する。(TODO)
ここまで成功すれば、ユーザが送ってきたデータが
- サーバが送った情報を元に
- FIDO-U2F でユーザの操作を伴い鍵ペアを正しく生成し
-
その公開鍵が改ざんされずに送られてきた
- challenge が送ったものと同じ
- origin が正しい
- clientDataHash と attestation に対する authenticator の署名を確認する
といったことが確認できる。
確認できたら、公開鍵の情報をユーザに紐付けて保存することで、パスワードの代わりに認証に使用する。
同じユーザが複数の認証デバイスを登録することも想定するなら、以下のようになる。
storage["username"] = {
id,
authenticators: [
{credentialID, credentialPublicKey, signCount}
]
}
なお、もし同じ credentialID が既に登録されていたら、基本的に拒否するが、上書きを選ぶこともできる。
Authentication
1. サービスに対して challenge (乱数)の発行を要求する
registration 同様、サーバに username を送り、認証に必要な以下の情報を要求する。
(ここではそのまま navigator.credentials.get()
に渡せる形でサーバから返している)
{
challenge: crypto.randomBytes(32),
allowCredentials: [
{ type: "public-key", id: "xxxxxx" }
],
}
allowCredentials は、サーバに保存した、ログイン対象のユーザに紐付いた credential id だけを取り出し type をつけたもの。
challenge は登録時と同じくランダムな値。これもセッションなどに保存しておき、実際の認証で使う。
req.session.challenge = challenge
req.session.username = username // CAUTION!! this is only a sample
2. この challenge を元に navigator.credentials.get()
を呼ぶ
ブラウザは、取得した値を元に get()
を呼びクレデンシャルを生成する。
YubiKey を刺している場合は、ここでタッチを求められ、タッチすると Resolve される。
// get() PublicKeyCredential
const credential = await navigator.credentials.get({publicKey: option})
const { id, rawId, response } = credential // id は rawId の base64url
const { type, authenticatorData, signature, userHandle, clientDataJSON } // type = "public-key"
なお、credential.rawId は credential.id の base64url なので、id の方だけそのまま送れば良い。
3. サービスは中身を確認し、ユーザを認証する
まず credential.id で保存された credential がユーザに紐付いて存在するかを確認する。
userHandle は今回使わないので無視する。
次に clientDataJSON を JSON としてパースし、以下を確認する。
- clientData.type が
webauthn.get
である - clientData.challenge(base64) が最初に送った(session に保存した) challenge である
- clientData.origin がサービスの ORIGIN と一致する
- clientData.tokenBinding が正しい(今回は使ってない)
次に authenticatorData をパースする。フォーマットは registration で行ったのと同じ。
- rpidHash (32byte)
-
flags (1byte)
- UserPresent
- Reserved
- UserVerified
- Reserved
- Reserved
- Reserved
- AttestedCredentialData,
- ExtensionDataIncluded,
- sigCount (4byte)
- attestedCredentialData (var)
- extensions (var)
rpidHash が、Registration 時にサーバの提示した RPID の SHA-256 と同じことを確認する。
flag も同じだが、今回は AttestedCredentialData も無いため、UserPresent 以外 0 となる。
次に ClientDataJSON の SHA-256 ハッシュを取得する。
const hash = crypto.createHash("sha256").update(clientDataJSON).digest()
これを、authenticatorData と連結したものを署名したものが signature と一致するかを確認すれば良い。
ここで使う PublicKey は、Registration でユーザに紐付けて保存した PublicKey だが、これを PEM にする場合は少しいじる必要が有る。
結論から言うと、以下のようなメタデータを付与する必要があり、それ以外は先の方法と同じく base64 を 64bit ごとに折り返せば良い。
(ここが一番ハマった)
// https://github.com/fido-alliance/webauthn-demo/blob/master/utils.js
// https://stackoverflow.com/questions/45131935/export-an-elliptic-curve-key-from-ios-to-work-with-openssl
//
// If needed, we encode rawpublic key to ASN structure, adding metadata:
// SEQUENCE {
// SEQUENCE {
// OBJECTIDENTIFIER 1.2.840.10045.2.1 (ecPublicKey)
// OBJECTIDENTIFIER 1.2.840.10045.3.1.7 (P-256)
// }
// BITSTRING <raw public key>
// }
// Luckily, to do that, we just need to prefix it with constant 26 bytes (metadata is constant).
const publicKeyPEM = Buffer.concat([
Buffer.from("3059301306072a8648ce3d020106082a8648ce3d030107034200", "hex"),
Buffer.from(publicKey),
]).toString("base64").match(/.{1,64}/g)
この鍵で署名を確認する。
const verified = crypto
.createVerify("sha256")
.update(Buffer.concat([authenticatorData, hash]))
.verify(publicKeyPEM, signature)
最後に、ここで取得した signCount が、保存しているものよりも大きいことを確認する。
ここまで成功すれば、認証が完了したとみなすことができる。
Outro
WebAuthentication API により、FIDO U2F を用いた認証が Web 標準でも可能になった。
色々と細かい処理はあれど、基本の流れは鍵ペアの生成と交換、その検証からなる流れということがわかる。
実際にサービスに導入する際には、ライブラリやサービスに頼るべきだと思うが、今回のようにラフな実装で仕様を眺めると、理解の助けになるだろう。