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自作 Markdown プロセッサベースの blog.jxck.io v2 リリース

Intro

本サイトは自作の Markdown ビルダを使っていたが、色々と気に食わない部分があったのでフルスクラッチで作り直し、それにともなってサイトの刷新を実施した。

必要だった要件や、意思決定を作業ログとして記す。

Markdown

本サイトは、一般に使われている Markdown -> HTML の変換結果では要件を満たせないため、最も都合の良い AST を吐く Kramdown のパーサから AST だけを取得し、それを Traverser でカスタマイズしてから自前でシリアライズしていた。

その実装を、微修正を繰り返しながら、継ぎ足し継ぎ足しで 5 年くらいイジってきたので、そろそろ自分がブログを書く上での要件も固まっており、記事中の Markdown のスタイルも固定してきた。

一方、 Kramdown の実装が原因でどうしてもワークアラウンドが必要だった部分に、フラストレーションも技術的負債も溜まっていたため、自作の Markdown パーサ/ビルダをフルスクラッチで作ることにした。

プレビュー表示などでブラウザでも使えるよう、一応 Pure JS (+ JSDoc Typed) で 1 ファイルにゴリっと書いている。また、汎用性は求めてないのでライブラリとして別リポジトリで公開はせず、ブログのソースに組み込んで密結合させている。

要件

メモとして実装上の要件を記しておく。

Heading / Sectioning

大抵の Markdown 実装は #, ##<h1>, <h2> にそのままシリアライズされる。

# h1

## h2

### h3

### h3
<h1>h1</h1>
<h2>h2</h2>
<h3>h3</h3>
<h3>h3</h3>

これを <section> で階層化し、 <h1> だけは <article> にする。

<article>
  <h1>h1</h1>
  <section>
    <h2>h2</h2>
    <section>
      <h3>h3</h3>
    </section>
    <section>
      <h3>h3</h3>
    </section>
  </section>
</article>

さらに、見出しジャンプを入れる。その際、 ID を振るが、もし被った場合は後ろに連番を振る。

<article>
  <h1 id="h1"><a href="#h1">h1</a></h1>
  <section>
    <h2 id="h2"><a href="#h2">h2</a></h2>
    <section>
      <h3 id="h3"><a href="#h3">h3</a></h3>
    </section>
    <section>
      <h3 id="h3_1"><a href="#h3_1">h3</a></h3>
    </section>
  </section>
</article>

もともと Kramdown をカスタマイズしはじめたのも、これを行いたかったからだった。

閉じタグとクオートの省略

HTML の仕様には、閉じタグやクオートの省略条件が書かれている。

条件を満たすものについては、仕様に準拠しながら省略している。

インデント

インデントはキレイに

blockquote の cite

blockquote 記法の最後に書いた URL を cite として埋め込む。

例えばこれは

> example page
> --- https://example.com

以下のようになる。

<blockquote cite="https://example.com">
  <p>example page</p>
  <p>
    &mdash; <cite><a href="https://example.com">example.com</a></cite>
  </p>
</blockquote>

本来は cite 属性の方だけで良いが、以前は <cite> だったため今は互換を保つよう両方に入れている。

外部 script の読み込み

ブログを書く上で、コードブロックにサンプルコードを書くことは多く、その中身が多いと外部ファイルに出し、ビルド時に読み込めると便利だ。

そこで、本サイトは初期から以下の記法をサポートしていた。

```js:script.js
```

このようにすると、 HTML ビルド時にカレントディレクトリの script.js を読み込んで HTML の <code> 内に展開してくれる。

img のカスタマイズ

画像の埋め込みは .png / .jpeg / .gif を一次ソースとしているが、必ず webp を提供している。

これを出し分けるために、画像記法は <picture> になるようにカスタマイズしている。 (SVG は単に <img> になる)

また width/height を明示できるよう、 URL の最後に fragment を #300x300 のように指定すると width, height として解釈する。

さらに、画像を読み込んで mtime から最終更新時を算出し、それをクエリに付与して Cache Busting する。

![alt text](image.png#300x300 "title test")

これは以下のように展開される。

<picture>
  <source type=image/webp srcset=image.webp?211010_101010>
  <img
    loading="lazy"
    decoding="async"
    src="image.png?211010_101010"
    alt="jxck"
    title="jxck logo"
    width="256"
    height="256"
  />
</picture>

そして、動画を埋め込む記法が Markdown にはないが、これまで gif アニメにしていたものは mp4 に移行しつつあるので、拡張子が mp4 だった場合は <video> になるようにしている。こちらは、 webm のフォールバックを入れている。

![dummy video](dummy_video.mp4#1000x2000)
<video title="dummy video" width="1000" height="2000" controls playsinline>
  <source type=video/mp4 src=dummy_video.mp4?211010_101010> <source
  type=video/webm src=dummy_video.webm?211010_101010>
</video>

そろそろ avif 対応も入れたい。

adoptive CSS

<table> 用の CSS と <pre> のシンタックスハイライトは、他の要素に比べて CSS の量が多いのにかかわらず、出現頻度が低い。

そこで、 <table><pre> の CSS はファイルを分け、 HTML に出現する直前に CSS を一度だけ差し込むようにしている。

そのメリットは以下で解説している。

HTTP2 を前提とした HTML+CSS コンポーネントのレンダリングパス最適化について | blog.jxck.io

<table>

Kramdown は、文の途中で | が来ると <table> が始まったと解釈する。

しかし、以下のようなリンクのタイトルは | を含むことが多く、エスケープが必要だった。

- [HTTP2 を前提とした HTML+CSS コンポーネントのレンダリングパス最適化について | blog.jxck.io](https://blog.jxck.io/entries/2016-02-15/loading-css-over-http2.html)

mozaic.fm の Monthly Web では、 Show Note に大量のリンクを貼るため、そこに出てくる | を全てエスケープするのは面倒だった。

一方、文の途中で <table> を始めることなどないため、 | は行頭にきた場合のみ <table> と解釈することに限定し、エスケープしないで良いようにした。

また、 <table> の align は align 属性で指定も可能だが、もう deprecate されているため、 CSS で align するために class をつけるようにしている。

TOC の生成

前述で生成した heading とその ID を用いて、ページ内リンクの Table of Contents を生成して吐くようにした。

TOC の生成は、後述する Traverser で欲しい人が自分でやるスタイルにしようかとも思ったが、前述の ID の重複検出をするには、どちらにせよパース時に Heading のリストを保持することになるので、それをそのまま ToC として AST と一緒に返すようにした。

この TOC は、 blog のタイトル上に埋め込んでいる。

h1

h1 には以下のようにタグが書けるようにしている。

# [tag] hello world

これも、 blog のタイトル上に埋め込んでいる。

Front Matter

特に moziac.fm のエピソードページでは、 mp3 ファイルの場所や guest 一覧など、いくつかのメタデータを Markdown 内に独自ルールで書いて、それを雑に正規表現で処理していた。

しかし、 Markdown の先頭に YAML でメタデータを記述する Front Matter のサポートを入れることで、そうしたメタデータをそちらに移した。

---
type: podcast
tags: ["monthly web"]
audio: https://files.mozaic.fm/mozaic-ep89.mp3
published_at: 2021-10-26
guest: [@myakura](https://twitter.com/myakura)
---

# ep89 Monthly Web 202110

## Theme

第 89 回のテーマは 2021 年 10 月の Monthly Web です。

YAML は YAML パーサを入れるほど複雑なものを書いてないので、 YAML パーサを自作するのをぐっとこらえて雑に処理している。

<dl>

定義リスト記法もサポートしている。

さらに <dl> の下の <dt> <dd><div> で囲むことが許されており、これがあるとスタイルがちょっと楽になる。

key1
: val1
key2
: val2
: val3
<dl>
  <div>
    <dt>key1</dt>
    <dd>val1</dd>
  </div>

  <div>
    <dt>key2</dt>
    <dd>val2</dd>
    <dd>val3</dd>
  </div>
</dl>

個人的には Markdown のこの定義リスト記法はあまり気に入ってない。

特に、 dd が来ないとその手前が dt だったことがわからないというパースのしにくさもある。

いっそ以下のような独自記法を入れてしまってもよいかと考えている。

:key1
  :val1
:key2
  :val2
  :val3

余計な空白はエラー

以前はビルドとは別に linter のようなものを雑に作ってフォーマットを確認していた。

しかし、せっかくパーサを書いたので、パースの際に気に食わないところは、すべてエラーにすることにした。

以下全部エラー

a **b** c
a **b** c
a ** b** c
a **b ** c

- aaa
- bbb

これを formatter にしてもよいかもしれないが、ビルド時エラーで間に合っているのでしてない。

Kramdown ではサポートされてなかった URL Like String を含めて、リンク記法は以下の 3 つを全てサポートしている。

[title](https://example.com)
<https://example.com>
https://example.com

最後の何も記法がないものは、とりあえず http://https:// で始まるものだけに絞ることで誤発動を防いでいる。

about:, chrome:, file: をサポートするかは考え中。

使わない記法は実装しない

  • <del><i> は使わないので実装してない
  • <ul>- しか使わないので * は実装しない
  • <ol>n. しか使わないので + は実装しない
  • Math も使わないので実装しない

traverser plugin

ここまでに上げたような本サイトに必要な機能は、 1 つに盛り込んでも良かったが、最終的にはブラウザでの挙動も想定して作っておきたかった。

ブラウザで挙動させると問題になるのは、 Cache Busting のためのファイル更新時間確認や、 <pre> への外部ファイル埋め込みなどが動かないことだ。

やはり、 Markdown ファイルだけを見て生成できる HTML と、そこに対するカスタマイズを分離することで、ブラウザ上でもプレビューなどが動くように保つ方が後々良いだろう。

そこで、 AST を生成した後に、そこを Traverse する機能を用意し、 Node をたどりながら好きな変更を入れられるようにすることで、そこを Plugin のフックポイントとすることにした。

特に Node の fs を使わないと実現できないものは Plugin 側に寄せ、責務を分離できるようにしている。

技術負債の解消

Markdown プロセッサを直すと同時に、それまで溜まっていた負債や、後回しにしていた改善も一気に入れることにした。

脱 WebFont

鉄下駄として WebFont を入れていたが、もう試すことはだいたい試した上に、もう日本語フォントにこれ以上期待するのは難しいと考えてやめた。

HTML Header

テンプレートを直すついでに、継ぎ足し継ぎ足しだったヘッダ部分を色々と整理した。

Favicon

Favicon / Touch Icon のサポートと解像度を整理し、多くのケースをカバーできるようにした。

Twitter Card

Twitter Card のためのタグを入れていたが、もうどうでもいいのでタグを削除。 OGP 自体はあるので部分的にそちらでカバーされるはず。

Hatena

「内容が長いとブコメしか見ない」というはてな民が一定いるという話を聞き、であれば読まれない方がマシということで Opt-Out のタグを追加。

SEO 自体はどうでもよいが、 Google の検索結果がなんか色々雑に表示されていることに気づいたので修正。

うまく反映されてない部分もあるので WIP

  • DONE: Sitelink Search
  • TODO: サイト内リンク
  • TODO: Favicon
  • other

ついでに robots.txt も整理。

AMP 削除

以前 AMP のサポートは落とした が、コードベースは残していた。

しかし、新しいビルダに移行したことで、残していた実装も完全に削除した。

webpkg/amppkg

どちらも証明書が切れたので停止。いずれ証明書が安く手に入るようになったら再開するためコードは残す。

効果

実装を置き換えてからの効果は以下。

  • Markdown -> HTML 変換速度が上がった(きちんと測ってないが体感 1.5 倍)
  • コード量を大幅に減らし、見通しをよくできた
  • 記法エラーを実装したことで、これまでの原稿を整形できた
  • これまでの HTML の細かな問題、気に入らなかったところも全て精算できた
  • Kramdown の依存が無くなったので、 dependabot から警告が来ることが無くなった
  • ビルドプロセスに JS と Ruby が混ざっていたが、 Ruby をなくし JS に一本化できた
  • 溜まっていた負債を払った

まとめ

今回 CSS の修正/整理まではいけなかったので、それは来年以降取り組みたい。

また、起点になる Markdown コードベースを作り直せたので、これを元に mozaic.fm の方も改良を入れたい。