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3PCA 21 日目: SameSite Cookie

Intro

このエントリは、 3rd Party Cookie Advent Calendar の 21 日目である。

Google が 3rd Party Cookie を Deprecate していく方針を発表してから、最初に始めたのが SameSite Lax by Default だった。

これが何のために行われたのかを解説する。

eTLD+1 とは

SameSite とは「eTLD+1 が同じ」という説明になる。これを理解するには eTLD を理解する必要がある。

例として example.com ドメインを持ち、そこに以下のような Cookie を付与するところを考える。

Set-Cookie: session_id=deadbeef; Domain=example.com

これは、この Cookie が https://example.com とそのサブドメイン全体に送られるように設定するものだ。この Domain 属性をつけなければ、 https://example.com/ にしか送られない。

ここで、以下を考える。

Set-Cookie: session_id=deadbeef; Domain=com

これでもし、この Cookie が .com のあらゆるサブドメインに送られるようになると問題だ。

従ってドメインの末尾にある Top Level Domain (TLD) である .com は指定できないようになっている。

では、次はどうだろう?

Set-Cookie: session_id=deadbeef; Domain=example.co.jp
Set-Cookie: session_id=deadbeef; Domain=co.jp

https://example.co.jp を持っているなら、 *.example.co.jp に送られるのは問題ない。しかし Domain=co.jp を指定できてしまうと、その Cookie があらゆる *.co.jp サイトに送られるため問題になる。

この場合 TLD は .jp であるが「Domain に TLD は指定できない」ではルールが緩すぎるのだ。

.jp のサブドメインでありながら、 https://co.jp/https://ne.jp/ はドメインレジストラでは取得できない。 co.jpne.jp は TLD ではないが TLD のように振る舞う。これを Effective Top Level Domain (eTLD) という。

ドメインレジストラで購入できるドメインは、 eTLD の左に 1 単語以上を繋いだ eTLD+1 (co.jp + example) になる。これが eTLD+1 の正体だ。

eTLD である組み合わせは、 Public Suffix List という巨大なテキストファイルで管理されている。

Same Site とは

https://example.co.jp とそのサブドメインである https://admin.example.co.jp は、通常同じ管理者が運用しているだろうと考えられる。つまり、eTLD+1 (https://example.co.jp/)までが同じであれば、そのサブドメインも同じサイトだと考えることができる。

これを Same Site と言い、 Same Site Cookie とは「eTLD+1 が同じである Same Site にしか送らない Cookie」を意味する。対して Cross Site Cookie は、まさしく 3rd Party Cookie を意味することになるのだ。

ドメインの関連: Same Origin/Same Site/Schemeful Same Site/Subset/3rd Party の違い

SameSite=Strict

たとえば https://example.co.jp で以下のような Set-Cookie を返した場合、この Cookie は厳密(Strict)に SameSite に制限される。つまり https://example.co.jp とそのサブドメインにしか送られないという指定になるのだ。

Set-Cookie: session_id=deadbeef; SameSite=Strict

逆を言うと、別サイト、つまり 3rd Party には送られないため、この属性がついていることは、「この Cookie は 3rd Party Cookie ではない」というラベルにもなる。

この https://example.co.jp がどこか別のサイト(つまり Cross Site)に <iframe> で埋め込まれた場合、この Cookie は https://example.co.jp/ には送られないということだ。

SameSite=Lax

ところが、これはあまりにも厳密であり、この Cookie は例えば https://example.com/ という Cross Site からの「画面遷移」でも送られない。もし https://example.co.jp にログイン済みでも、 https://example.com/ 上のリンクをクリックして遷移してたら、 Cookie が送られないためログイン済みにならない。といったことが起こってしまうのだ。

これは流石に制限が強すぎるため、緩和策として画面遷移(Top Level Navigation)だけは、例外的に Cookie を送るようにするための緩和仕様が Lax だ。

Set-Cookie: session_id=deadbeef; SameSite=Lax

これで、 <iframe> などの埋め込みでは送られないが、画面遷移の場合は送られ、認証済みの状態が維持できるようになる。

SameSite=None

逆に、これらの制限を外し、 Cross Site にも送れるようにする属性が None だ。

Set-Cookie: session_id=deadbeef; SameSite=None

Cross Site にも送ると言うことは、これは 3rd Party Cookie として使えるということだ。

つまり、 SameSite=None は「これは 3rd Party Cookie だと明示的に示すマーカー」とみなすことができる。

Lax by Default

Chrome は、3rd Party Cookie Deprecation の計画を発表した時に、まず Cookie のデフォルトを Lax にするという変更を行った。

画面遷移では送られるため、ログインセッションは維持できる。しかし、3rd Party Cookie としては送られない。という非常に重要な破壊的変更だ。

この変更により 3rd Party Cookie がブロックされ、さまざまなユースケースが壊れる。ワークアラウンドとして、3rd Party Cookie に依存している場合は、明示的に SameSite=None を付与する必要が出たのだ。

結果、世界中の広告プラットフォームや、認証連携や、 SNS のボタンなどで用いられるあらゆる 3rd Party Cookie には、 SameSite=None が付けられた。(対応が難しい場合は、サービスで使っている Cookie を全てにとりあえず SameSite=None を付与するといった対応もあった。)

しかし、いずれにせよこの作業を経て「世界中の 3rd Party Cookie が可視化された」ことになる。

ブラウザが SameSite=None の使用量をメトリクスで監視すれば、世界でどのくらい 3rd Party Cookie が使われているのかを把握でき、事業者は自分たちのコードベースに SameSite=None がどのくらい残っているのかを把握することで、どの程度 3rd Party Cookie への対応ができているのかを知ることができるのだ。

そして、 3rd Party Cookie を無くしていく作業は、この SameSite=None とマークされている Cookie を無くしていく作業ということになる。つまり、 Chrome が最後に「SameSite=None を無視する」という変更をブラウザに入れることが 3rd Party Cookie Deprecation のゴールになるわけだ。

CSRF の緩和

SameSite=Lax がデフォルトになるメリットは、 3rd Party Cookie の可視化だけではない。

CSRF 攻撃は、もともと Cross Site に Cookie が送られることを利用していたため、これも SameSite=Lax がデフォルトになることで、かなりのケースで攻撃が成立しなくなる。

しかしこれを理由に、従来の対策方法だった CSRF token ベースの防御が不要になるかと言うと、セキュリティ専門家は懐疑的であるか否定している。OWASP にはその理由が書いてある。

SameSite Cookie Attribute can be used for session cookies but be careful to NOT set a cookie specifically for a domain.

This action introduces a security vulnerability because all subdomains of that domain will share the cookie,

and this is particularly an issue if a subdomain has a CNAME to domains not in your control.

https://cheatsheetseries.owasp.org/cheatsheets/Cross-Site_Request_Forgery_Prevention_Cheat_Sheet.html

タラレバな部分もあるような気がするが、万全の対策には従来の手法を最終層に置いた、多層防御が必要となる。

しかし、 SameSite=Lax によって大半が落とされ、さらに Sec-Fetch-Dest/Sec-Fetch-Mode/Sec-Fetch-Site/Sec-Fetch-User あたりをチェックすれば、ミドルウェアで攻撃リクエストを落とすことができ、 CSRF Token を格納している Redis などの Cookie Storage への I/O の削減に繋がるだろう。

ちなみに 3rd Party Cookie とは離れるが、 Same Site Cookie を最大限使いこなすには read/write を分離するのがベストプラクティスとされている。

これはつまり、 API への Read 権限を Lax にし、 Write 権限を Strict にするというものだ。

従来の 1st Party Session Cookie は、それ単体で Read も Write も担っていた。これを 2 つに分けて Read つまり GET で画面を遷移するのには Lax を使い、その Cookie だけでは POST/PUT/DELETE はできなくする。

代わりに POST/PUT/DELETE 用に Strict な Cookie が付与されるようにするというものだ。

Set-Cookie: __Host-session_read=deadbeef;  Secure; HttpOnly; Path=/; SameSite=Lax
Set-Cookie: __Host-session_write=facefeed; Secure; HttpOnly; Path=/; SameSite=Strict

リクエストを受け付ける時は、まずミドルウェアでメソッドの種類と、それに応じた Cookie が送られてきているかをチェックする。

イメージとしては以下のような感じだ。

app.use((req, res, next) => {
  const method = req.method

  // POST/PUT/DELETE は Write Cookie を要求
  if (["POST", "PUT", "DELETE"].includes(method)) {
    const cookie = req.cookies["session_write"]
    // 無ければエラー
    if (cookie === null) return res.send(400)
    // あれば値を Storage に確認
    if (checkCookie(cookie)) return next()
    // 値がおかしければエラー
    return res.send(400)
  }

  // GET は Read Cookie を要求
  if (method === "GET") {
    // 無ければエラー
    if (cookie === null) return res.send(400)
    // あれば値を Storage に確認
    if (checkCookie(cookie)) return next()
    // 値がおかしければエラー
    return res.send(400)
  }

  return res.send(405)
})

リファクタリングとしては多少難易度が高いが、この分離が可能であれば、ついでに Cookie Prefix の付与や、ミドルウェアでの Sec-Fetch 系のチェックなども入れられると、より堅牢な実装ができるだろう。

Read/Write 分離の運用は、 GitHub が既に行っているため参考になる。