「議論だけ」のカンファレンスの作り方
Intro
「議論だけ」のカンファレンスを、長いこと開催してきた。
個人的には好きなので、他にもあったらいいと思っているが、そういうカンファレンスは他に見ない。
カンファレンス自体を、筆者のような個人が手弁当でやれるのは、もう最後かもしれないと今回ひしひしと感じたので、これまでどうやってきたのかを残しておくことにする。
「議論」だけ
特に日本では、勉強会やカンファレンスは、「スライドの発表会」形式として定着している。
これは、絞られたテーマについて、まとまった形で聴くことができ、資料も後で共有できる点でメリットはある。
しかし、全部がそうである必要はないのでは? とずっと思っていた。
特に懇親会では、雑に集まって、雑に議論が始まり、雑に盛り上がって、勉強になる上に単純に楽しいという経験をした人も少なくないと思う。
スライドで発表する場合は、スライドに収まる話しか出てこない。30 分しか枠がなければ、30 分で収まる話しかできない。
また、発表したい人を集めると「発表したい」人の話しか聞けない。世の中で面白いことをやっている人たちが、必ずしも CFP を出してスライドを作ってまで、表で発表したい人たちばかりではない。
「パネルディスカッション」との違い
パネルディスカッションを聞いていて、面白かったと思うことがあまりない。
特に企業主催のイベントは、名前を並べることにインセンティブが働き、とにかくゲストを呼んで 5 人も 6 人も壇上に並べてしまう。
その上で、セッション時間が 30~40 分とかだったりする。
出演者も、自分の何かを背負って来ている人が多いので、自己紹介が無駄に長い。
そんな中で、デモを見せる時間を作ったり、資料を写してみたり、それで 10 分。
足しにもならない会場の巻き込みををしてみたり、質問を募ってマイクを回してみたり、それでまた 10 分。
もうこの時点で、各位が話す時間はほぼない。そして実際一言二言マイクを回して終わる。
なぜか無駄なことを色々としてしまい、主語の大きいテーマだけは用意しているが、全く深掘りされない。
そういうのを見るたびに、せっかく面白い人が出ているのに、勿体無いなとずっと思っていた。
議論できる場所
CROSS という別のカンファレンスで、「何かやれ」と主催に言われたとき、「Web についてひたすら議論したい」と言って、枠をもらったのがきっかけだった。
結局、60 分を 2 枠もらい、俺が議論したい人を呼んで 4 人で行うセッションを「次世代 Web セッション」と名付けて始まったのがこのやり方の原点だ。
やりたいことができて楽しかったため、翌年も 2 枠もらって実施した。
しかし、年に一度だと、たとえ 60 分 2 枠でも話したいことが尽きない。そして CROSS 側も DPZ 色が強くなり、趣向が変わった感じがあったため、やる場所を失った。
しかたなく、「議論」をもっと細かく定期的に続けられる場として始めたのが mozaic.fm だった。スライドを使わない議論は音声だけでできるし、勉強会のように場所探しや参加者募集がいらないため、継続するには丁度よかった。
ところが、やっていくと俺自身がボトルネックになる。俺が聞きたい議論なのに全部俺がいて、俺の知ってる話をしているし、実施ペースもある程度以上増やせない。
話したいテーマが溜まりすぎたので、俺が議論したかったテーマを別の人に頼んで議論してもらおうと思い、「次世代 Web カンファレンス」を始めた。
途中コロナ禍は、オンラインでのイベントがあまり面白いと思えなかったので大人しくしていたが、やっぱり「Web の話がしたい」と思い、「オンラインでしかできないなら、オンラインでしかできないことをしよう」ということで、縦に繋いで 24 時間配信にした。
- 次世代 Web セッション @ CROSS 2013
- 次世代 Web セッション @ CROSS 2014
- 次世代 Web カンファレンス 2015
- 次世代 Web カンファレンス 2019
- Web24 @ Online 2021
- 次世代 Web カンファレンス 2023
こうしてみると 10 年くらい「議論できる場所」を探し続けていたことになる。
「議論」というフォーマット
「議論をする」という定義を明確にするために、「それ以外をしない」側を定義した。これは最初の次世代 Web セッションの時から一貫している。
- 3 人以下にしない、5 人以上にしない
- 打ち合わせをしない
- 台本はない
- プロジェクタを使わない
- 資料はない
- 自己紹介をしない
- 個人として出てもらう
- 運営と登壇者に分けない
- 会場のレベルに合わせない
- ゴールを設けない、まとめない
- 60 分より短くしない
- 質疑応答をしない
- 自薦を受け付けない
- 宣伝目的で出ない
- いつもの人たちにしない
打ち合わせをしない
4 人での議論を依頼すると、人はどうしても打ち合わせをしたがる。これは自分としては意外だった。
最初は何も言わなかったが、同じテーマを持っている人間が打ち合わせをすると、結局色々と議論に発展してしまう。
しかし「人間は短期間で同じ人と同じ話はできない」のだ。絶対にギクシャクするし、最初のような鮮度はない。
だから、登壇者には打ち合わせをしないように頼んでいる。それでも不安に駆られて「打ち合わせじゃなくて顔合わせ」などと称して、打ち合わせをしてしまう人も多い。
そもそも、我々は「自分と同じ関心があるエンジニア」であれば、懇親会などでばったり会った人と、その場でいきなり長時間議論ができる人種だ。そこに打ち合わせも台本もない。顔合わせが失敗する理由がそれをまさしく証明している。
セッションにはテーマを決めて、そのテーマに沿った人を集めているので、話出して話せないことはまずないだろう。本当の意味での顔合わせは、当日の楽屋で本番前までに一緒になってる時間で十分なのだ。
ところが、単純にコミュ障的な意味で初対面の人と話すハードルが高い人もいるので、顔合わせまでは止めていないが、テーマについては話さないように念を押している。
たまにこれを破って本番後悔している人もいる。
台本なし
台本はもちろん、「話すこと」リストのようなものも用意する必要はない。
「この話がしたい」と思うなら、それを本番の中ですればいいだけで、それに対して思っていることがあれば言えばいいだけだ。知らなければ知らなくていい。
もし「話すこと」リストをがっちり用意すると、結局それを消化する方に意識が行き、予定調和になって脱線がしにくくなる。本来、脱線が一番面白い。脱線させたいから 90 分も用意しているのだ。
そして、「次これを話さないと」を振っている人は、進行になってしまう。進行に回った人の意見がなかなか聞きにくくなる。
本当は順番も何もなく、白熱してそれぞれが自発的に発言している状態の方がいいし、その流れを止める何かは全て排除したいと思っている。
その方が、用意された話なんかより面白い。
自己紹介をしない
パネルディスカッションなどを見ると、自己紹介がやたら長い人がいる。たぶん自己紹介のために出ているんだろう。
一人 5 分もやればそれで 20 分くらいかかる。その間は「議論」がない。
だから、最初から「自己紹介はない」ということを前提として「それが嫌なら断ってほしい」という依頼をしている。
代わりに、自己紹介をすべて Connpass 上に書き、固定スライドに名前を載せ、最初にセッションオーナーが名前だけ紹介するという方法でカバーしている。
プロジェクタを使わせない
普段慣れた方法であるため、すぐにスライドを映したり、デモを披露したり、資料やサイトを出したりしたくなる人がいる。
本人はあった方が良いと思って、サクサク操作しているように思うかもしれないが、操作している間も、読み上げている間も、他の登壇者は黙って見ていることになる。その間は「議論」がない。
デモはだいたい失敗するし、見たところで議論の足しに大してならないものも多い。サクッと言葉で説明して「それについてどう思っているか」の方が聞きたい。
そこで、プロジェクタを封じている。正確には、必要な情報と登壇者の名前を入れた「固定スライド」を表示し、プロジェクタを奪うようにしている。
使えるのはマイク一本だけだ。
資料はない
なので、もちろんスライドはない。
資料の共有がない代わりに、議論自体を録画もしくは録音してアーカイブを残すようにしている。
実際、カンファレンスを主催している以上、俺はほとんどのセッションを聞けないので、俺にとってカンファレンスを主催する最終目的は、このアーカイブを残すことであったりもする。
リアルタイムの配信は、非常に実施負荷が高く、やろうとした瞬間に考えるべきことが爆増する。コストをかけてやったところで、実際に視聴している人数も数人だったりするので、ここに負荷をかけるのはなるべくしないようにしている。
たまたまできることがわかったり、善意でまるっとやってくれる人が現れない限りは、極力やらない。やるとしてもベストエフォートで、止まろうが落ちようが気にしないように期待値を下げておくようにする。
画面もいらないため、ボイスレコーダーでマイクの出力でも録れれば、アーカイブとしては十分だ。
個人として出てもらう
いちいち「これは個人の発言ですが」みたいなエクスキューズをしないと、話せない人は結構いる。
時間の無駄なので、「全員が組織の代表ではなく個人として出ている」を前提とすることを、登壇依頼も公式サイトにも明記している。
登壇者と運営を分けない
「全員が出演者兼スタッフ」の形をとっている。これは単純に、設営や受付を手伝ってもらうという意味もある。
しかし重要なのは、上記とセットだが「登壇者」と「運営」という構図にしないという意図がある。
一つは、「運営にこういうことは話すなと言われた」とか「運営にこういう話をしろと言われた」みたいな言い訳をさせないこと、
二つ目は、本人の発言で何か問題になった場合でも「運営が何とかしてくれる」と思わせないためだ。
登壇者は「自分の言葉を自分の意思で発する」という外的要因のない状態を作る。
そのため、登壇依頼時に「こういうテーマでこういう方向の議論をしてほしい」と、出演可否を判断するための最小限の情報は提示するが、座組が決まった後は、セッションの内容には一切口出しをしないようにしている。
(せっかく Slack や Discord に 50 人近い第一人者が集まっているのに、余計なことを入れないようにするのは、元々のモチベーションからして、俺にとって一番つらい時間でもある。こういう話が聞きたいな、と言いそうになるのを、数ヶ月間ずっと堪えることになる)
参加者のレベルに合わせない
よく会場に「〜〜について知ってる人」と手を挙げさせ、それに応じて内容のレベルを調整してますみたいな、謎のアレをやらないように頼んでいる。
自分たちの話したいレベルで話し、会場は置いてきぼりでいい。むしろ「全くついていけなかったけどすげー面白かった」という体験を提供するくらいでこそ、やる意味がある。
せっかく 60 分とか 90 分とか座って聞いているのに、いちいち出てくる語彙の解説や背景のちょっとした説明など、後で調べればわかるようなことに時間を使うのは無駄だ。その時間に「それについてどう思っているのか」などを聞ける方がよっぽど価値がある。
という説明をしているが、本心では「会場のレベルに合わせて議論のレベルを下げた」という言い訳をさせないという目的もある。
ゴールを設けない、まとめない
正直、90 分そこら話してたどり着くようなゴールが設定できるなら、その時点でもう面白くない。テーマ設定にミスっている。
特に、ミーティング慣れしている人は、話をまとめたがる。聞いてる側にも「最後はまとめくらいしろ」と思う人もいるようだ。そんなものはどうでもいい。
答えがないから議論するのであって、まとまる話なら、事前に話したことをスライドにまとめてもらって発表して貰えばいい。
議論は、ゴールじゃなくてその過程が面白い。自分が知らなかったことや考えが、目の前をすごい速さで過ぎ去っていくような状態を維持して欲しい。
登壇者には、ゴールとかまとめとかどうでもいいから、とにかく時間いっぱい議論し続けて、時間が来たらスパッと終わってくれればいい。と頼んでいる。
参加者にしても、それを踏まえて自分がどう思ったのかを自分の言葉でまとめればいいだけで、誰かにまとめてもらわないとついてこれないなら、この形式に参加するのはおすすめしない。
60 分以下にしない
このようなフォーマットで実施する場合、最短で 60 分は欲しい。それ以上短くなるなら、やらない方がいい。
Podcast は 2~2.5h くらいでやるが、リアルでは休憩なしで聞ける限界を考えても、俺の理想は 90 分だ。
以前は 60 分と 90 分の枠を混ぜていたが、今回はあえてセッションを減らして全部 90 分にした。
「90 分議論してほしい」と頼むと、ほとんどの人は「そんなに話せない」と心配する。
これは「議論する」という経験が少ないだけだ。実際、多くの人が終わってみれば「あっという間だった」と言う。
だから、必ず「話残したことが無いようにしてほしい」と言っているのに、終わった後「あれが話せなかった」と後悔する人も多い。
本当にそのテーマについて日頃から取り組んだり悩んでいれば、90 分はあっという間なのだ、逆に 90 分話すことが無いなら、それはテーマに対するこちらの人選ミスだ。そうならないように、セッションオーナーと「そのテーマに日々真剣に取り組んでいる人」を選んで頼んでいる。「あの人なんか最近この辺触ってるらしいよ」だけでは頼めない難しさがここにはある。
逆に、こういう場を作ると「何か一言残そう」とキラーフレーズみたいなものを用意してくる人もいる。そういうのは最初の 30 分で全部出してもらい、次の 30 分で用意した弾が尽きると、最後の 30 分はほとんど丸腰で話すことになる。
最後の 30 分のための前段階の 60 分でもある。
普段多く語らない人が熱のこもった本当の気持ちを吐露してくれたり、普段それっぽいことを言ってるだけでセルフプロデュースに成功している人のメッキが全部剥がれることもある。
90 分は本音を隠すにも、ハッタリで乗り切るにも長い。
だからこそ、「本物」達をきっちり 4 人アサインできると、他では聞けない何かが聞ける。
質疑応答をしない
会場で挙手を募って、スタッフがマイクを回して行うあれをやらない。まず、あれは思った以上に時間を食う。その時間があったら議論してほしい。
やったとしても一問一答だ。90 分議論したことに対して、一問一答で何かを挟んだところで、議論に対する大した足しにはなりにくい。それは Slido などを使っても基本は同じだ。
時間の無駄なので、セッション中の質疑応答は無くした。
もしその議論を聞いてて本当に思うことがあるのであれば、その参加者がしたいのは一問一答の質疑応答ではなく、議論への参加のはずだ。
だから、セッションの後に登壇者には別の場所に移ってもらい、思うことがある人はそこに行けば延長戦ができるようにしている。
この形式では、ちょっと思いつきで一言言ってやりたい、みたいな無駄な質問もなくなり、本当に思うところある人以外を篩い落とす役割もある。
今年の次世代では、理想的な場所を用意し、コンテンツを 15 枠から 12 枠に減らして、30 分の転換をとり、そこを延長戦に当てた。どこも非常に盛り上がっていたので、この形は理想だった。
転換は 30 分を延長戦に当てたので、登壇者は実は 120 分議論することになる。そして、次のセッションを見に行かないのなら、次が終わるまでの 90 分ずっと延長戦ができるので、フルでいると 210 分話すことになる。
という事実はあえて言わないでいたが、210 分話していた登壇者は何人もいた。数字に惑わされなければ、エンジニアにとっては、そのくらいの議論は特別なことではないのだ。
自薦を受け付けない
このフォーマットの難しいところは、「俺に話をさせろ」という登壇者が入ると、大抵うまくいかないという点だ。
「議論」は、「自分が話したいことを話す」以上に「相手の話を聞く」という技術が非常に大事になる。
特にセルフプロデュースのための登壇は、「議論」ではなく「自己主張」が目的な場合が多い。一人でずっと自分のしたい話だけし続けるのも、それがぶつかり合っていい歳こいた大人が 90 分マウント取り合ってる姿も、とても見てられない。
今までも「俺に喋らせろ」という人も何人かいたが、全て断ってきた。
同じく、このフォーマットの登壇者を公募などにするのは難しく、毎回こちらで選定している理由でもある。
宣伝目的で出ない
自社サービスの宣伝や、"We are hiring" 自体を目的に出演しないで欲しいという話も、登壇依頼時にしている。
ここには「自分の宣伝」という目的も含んでいるため、自薦を受けていない理由でもある。
実際、セッションの中で自社サービスの PR めいたことをする人は今までいなかったので、基本的にあまり困ったことはない。
むしろ、毎回困るのは過度な「自粛」の方だったりする。
登壇者は意図をよく汲んで出てくれる人が多いので、「自社サービスの話をしないように」と過度に気をつけてくれる人がいるのだ。
しかし、例えば今回のセッションで言えば "Passkey" のセッションなのに、自社で Passkey をデプロイした話を一切封じて、議論を一般論に留めるというのは、望むところではない。
Passkey セッションの登壇者は、こちらから「Passkey について議論してほしい」と頼んで、割と無理を聞いて受けてもらっており、「自社の Passkey 機能を宣伝したくて出ているのではない」とわかっているので、そこに妙な引っかかりを覚えて、議論に変な影響が出るのは避けたい。
ここはもう、「宣伝目的で出演しないでほしい」を飲んで出てくれている登壇者との信頼関係で成り立っている。
過度に自粛しないように、毎回ここまでに書いたような意図を説明するようにしている。
いつもの人たちにしない
どの界隈にも「いつもの人」がいて、そういう人を集めるのは負荷的にも質的にも安全ではある。
しかし、いつメンが揃うとどうしても内輪ノリな部分が出てしまう。議論についていけないのはまだいいが、ノリについていけないのは聞いていて面白くはない。
そして、何年かごとに開催するのに、いつも同じ人たちの話を聞くよりは、毎回違う人の議論を聞きたい。
また、公募せずに俺が依頼をしていくとなると、俺の知り合いばかりになって、それも面白くない。
だから、どのセッションも俺は「セッションオーナー」となる一人だけに頼んで、セッションをその人に作ってもらうスタイルをとっている。
「セッションオーナー」には「こういう議論ができる人をあと 3 人集めてほしい」と依頼し、紹介してもらいながら人を探していく。
オーダーは「できれば出たことない人」と「迷ったら若い方、迷ったらレアな方」の 2 つだ。
若い人を入れたいのは、顔ぶれを新しくしたいのと、その若手に何年か後セッションオーナーになって欲しいという狙いもある。
レアな方は、色々イベントがある昨今、他でも話が聞ける人よりも、普段あまり表に出ないような人の話が聞ける方が、面白いだろうという意図だ。
「90 分も話せない」とか「自信がない」と断られることもあるので、登壇者集めは結構大変だが、この方法で毎回新鮮な議論が聞けている。
ちなみに、この顔ぶれを一周させるには 4, 5 年かかる。これが、次世代がたまたま 4 年に一度になった主な理由だ。
議論の進め方
あとは、当日 4 人を横に並べて、マイクを持たせたらこちらの仕事は終わりだ。
と思っていたのだが、何度も言うように「議論する」ということに慣れていない人は思った以上に多い。
本当は「後は好きに議論してください」と任せたいし、議論自体に介入したくないが、中にはこれが「丸投げ」だと思う人もいることがわかった。
また、放っておけば本当に議論が発展するタイプのセッションもあるが、ギクシャクしてなかなか温度が上がらない議論もある。
そこで、「どうしたらいいか不安だ」というセッションオーナーだけに、少しノウハウを共有している。
今年セッションオーナーに共有したドキュメントが以下だ。
- Session Owner Tips - Google ドキュメント
本当はそんな小手先のことはどうでもいいから、好きなように思ったことを議論してくれればそれでいいのだが。
以下にまるっと貼っておく。
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みんな「打ち合わせしすぎない」が守られてるようなんで当日楽しみですが、打ち合わせをしなければ良い議論になるというわけではないですよね。
1.5h あるんで、それなりの人たちが集まって議論してれば、それなりに面白いものになるはずですが、おそらく最初はお互いが出方を伺って、盛り上がりきらない時間が続き、後半やっといい感じになったのに時間が来て不完全燃焼で終わったりします。これを避けてなるべく早くトップスピードに入れるのが皆さんセッションオーナーの仕事です。
やり方は人それぞれだし、登壇者の関係値にもよるんですが、いくつかテクニックがあるので参考までに。(好きにやっていいので不安な方向け)
よく「聞き手に回る」と言いますが、黙ってれば喋ってくれるわけではないので、正確には「聞き出し手、問いかけ手」に回るのが大事だと思います。なんせ「何を話すのかもわかってないで呼び出された人たちの集まり」で始まるんですから。
自分が話したい、意見を言いたい、知見を披露したい、をぐっとこらえて、それをあえて別の人に振ると、その人が話すきっかけを得て、繰り返すと「話すことに慣れる」ことができます。手探りなその場で、「全員が話すことに慣れた状態」が本当の議論のスタートです。
じゃあ何を振るか、ですが、序盤でいきなり「これからの Design System はどうなると思いますか?」みたいな核心の話を振ると、そもそもいきなり答えにくいし、議論が抽象側に寄り、具体的な話が出しにくくふわふわした会になります。んなことしねーよと思うんですが、本当にノープランで始めると意外とやらかす人がいます。議論をあせっちゃだめ絶対。
本来その核心をゴールにするために話始めたのであれば、必要なのはアイスブレークですね、でも世間話をするのも違います。どうしたらいよいか。
お手頃な手法は 2 つです、「あえて説明してもらう」と「体験を聞く」です。
例えば、Yuya Ito さんが別の人に「Passkey ってそもそも何が嬉しいんですか?」を聞いてしまうという感じですね。
これは
これ、自分で勝手に Passkey の話を出して、自分で勝手に説明し始める人が多いですが、それだと他の人は聞いて頷いてるだけになりがちなので、発展しにくい場合が多い。
でも、「自分が無知で聞いてるんだと思われたくない」というプライドだか恐怖心だかが邪魔してできない人も多いです。Yahoo で ID 担当してる Yuya Ito さんが Passkey を知らないはずは無いとみんなわかってるし、「そう思ってもらえる人」をオーナーとして集めてるのでそんな心配は無用です。
ただ、ここであまりにも当たり前のことを説明させると、議論のレベルが低空飛行で退屈な時間が続くので、質問のターゲットはそこそこ慎重に選んだほうが良いです。今回は初心者に向ける必要はありません。
例えば、今回は無いけど「HTTP」というセッションがあったとすると、そこに集められた人がが「HTTP スタック実装者」「HTTP 仕様策定者」「REST 厨」と集められていたりして、セッションオーナー以外(観客だけでなく他の登壇者も)その事実を把握してない可能性があります。バックグラウンドによって議論の進め方も、進行中誰にその話を振るかも変わってきますよね。
なんで、最初に「みなさんは HTTP についてこれまでどう関わって来たんでしょうか?」を一人づつ振る感じです。
これは
セッションオーナーは知ってるけど、他の登壇者同士はあまりわかってなかったりするので、早い段階でこれが見えていると後の議論が進めやすいというのがあります。
あと、「自己紹介」と振ると長くなったり、所属組織にメンションしたりする人が多いけど、「技術との関わり」はそういうムダがなく重要なところだけ聞き出せるし、出てきたキーワードを拾ってそこからそのまま議論になだれこめやすかったりします。
場が立ち上がったらあとは流れで進んでいけばいいです。中盤以降の流れは 2 つあると思います。「1:n 型」と「n:n 型」です。
オーナーがそのまま「聞き出し手」に徹し、議論をルーティングしていく感じです。場がコントロールされていると聞くとつまらなそうな感じがあるかもしれませんが、仮に「ずっと話しててマイク話さない人」や「全然前に出られずただ座ってる人」などがいる場合は、あえて場をコントロール下において、全員が均等に意見が言えるようにルーティングする方が良い場合もあります。逆に、登壇者が全員が第一人者級の人たちで、少ない言葉数でハイコンテキストに議論が進んでしまう場合も、あえてコントロールした方が良かったりします。
そうじゃなくても、「全員が黙ってしまう時間がよくある」、「登壇者同士の関係が薄くお互いに踏み込みにくい」、みたいな場合もコントロールしてたほうが、結果多くの議論ができる場合もあります。デメリットは、自分が基本「聞き手寄り」になるので、自分の意見がとにかく主張したいタイプのオーナーには物足りなさがあるかもしれません。
よく勘違いされますが、セッションオーナーは「司会」や「インタビューアー」のつもりで頼んで無いです。議論を引き出しつつ、その議論に参加して「自分の意見を言う」のも忘れないで下さい。
「n:n 型」は、オーナーという立場を捨てて全員が同じ感じでワイワイ議論するパターンです。最初「1:n」でコントロールして、盛り上がったら一旦「オーナーとしての自分を消す」時間を作って「登壇者同士がやり取りし出す」ように流れを作ると、あとはそこにジョインすればオーナーを捨てて議論に参加できます。そっから後は双方向でワイワイやればいいです。
これは、登壇者同士がそういうタイプなら自然とそうなるし、それもだいたい面白いんで良いですが、登壇者の相性がだいぶ重要です(なんとなくわかるよね)。そこを見誤ると「あの人ずっと一人で喋ってたな」、「あの人全然喋って無くね?」とか「なんかずっと内輪ノリだったな」とかになります。まあそれがおもしろい場合もあるけど、議論としてどうかってのはまた別なので。
勘違いしないで欲しいのは、「聞く人のために」の話はしてないです。聞く側からすれば、基本的にどうやってもそんなに「失敗」は無いです。でも、当人たちは最初は「1.5h も話せるだろうか」とか言ってても、終わった後だいたい「あれも話したかった、これも話したかった、話足りなかった」と言ってます。1.5h なんてあっという間なんですよ。それに気づくのはだいたい終わったあとなんだけど。
それを無くすための努力なので、基本は自分達が後悔しないためですね。
「聞く人たちのためにやる」必要は一切ないです、そのために議論のレベルを下げたり、必要以上に語彙の補足を入れたりしないでいいです。知ってる人にはつまらないし、無駄な時間が貴重な 1.5h を減らすだけです。そんな補足するくらいだったら、登壇者達の生の言葉を一秒でも多く聞けた方がやる価値があります。初心者向けのセッションなら、わざわざここでやる必要はないです。もっと適切な場とフォーマットを選んだ方が良い。
スライドも画面共有もしないのは、スライドに起こしたり、デモを見せたら終わるような話の「外側にある話」をするためです。ググれば出るような話はする必要がありません。本物達が本物の議論をしてると、それに触れた人が得るものは、ググって出てくるようななにかじゃ補えません。
「何話してたか全然ついてけなかったけどめっちゃ面白かった」とかが理想の状態だと思っています。
その時間の密度を高めるために、トップスピードにいかに持っていくかという話でした。
参考までに、過去のセッションの一例として前回の自分のを貼っておきます。本番の雰囲気は大体こんな感じということで。
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Session Owner Tips
立ち上がり
「あえて説明してもらう」
「体験を聞く」
その後の流れ
1:n 型
n:n 型
参加者のためではない
登壇者説明動画
カンファレンスのフォーマットがちょっと特殊であるため、本番が近づいて登壇者に不安が募り始めたころに、説明会を実施している。
今年の説明会動画を貼っておく。
- 次世代 Web カンファレンス 2023 説明会 - YouTube
登壇依頼ポエム
多くの登壇者が登壇依頼をしょっちゅう受けている人たちだが、それは大抵スライドの発表で、俺のする依頼は特殊な部類だろう。
あとから知らなかったことが増えて「こんなはずじゃなかった」とならないよう、セッションオーナーに趣旨を説明しつつ、上記のような条件を明示して登壇依頼をするために、「何をして欲しいのか」を全部まとめたポエムを作って依頼している。
以下は、今回 Tooling のセッションの依頼で Sosukesuzuki に渡したものだ。
- 「次世代 Web カンファレンス」登壇依頼 for Tooling Session
俺と Sosuke の関係なら「出てよ」「良いよ」で話は終わるかもしれないが、あえてこの内容を共有している。後からでも必ず送る。
面倒な条件を色々とつけているので、納得できない人もいると思っている。だから、これを渡す主な目的は「納得できないなら断って欲しい」からだ、そのための判断基準になりそうなものは全部最初に渡し、それを踏まえて返答をもらっている。
そして、セッションオーナーも、別の登壇者に依頼する際にこのドキュメントを共有してもらい、同じように確認してもらっている。
固定情報はテンプレの部分もあるが、「なぜこのテーマを今やりたいのか」と「どういう議論が必要だと思って依頼をしているのか」の部分は全部違うので、セッションごとに作っている。
一応「非公開」という前提で共有しているので、これだけ Sosuke に許可をとって公開しているが、これが全セッション分ある。もともと mozaic.fm の通常回への出演依頼に、同じ目的で送っていたため、俺からこのドキュメントをもらったことがある人は結構いると思う。
まとめ
発表形式を否定するような意図は一切ない。が、議論形式も楽しいので、もっと増えたら良いなとは思っている。
あと、上に書いたのは筆者が勝手に「自分の聞きたい議論」を引き出すためにやっていることで、そうじゃないといけないとは全く思ってない。もっと自由でいいと思う。
筆者の場合は、「議論以外の余計なことは一切しない」(グッズ作成やサイト作成、スポンサー集めやメディア連携 etc) ということで、他の作業を無くして 12 セッション 48 人のアレンジに集中していたが、それでも半年くらいはかかる。
もっと効率の良いやり方もあるだろうし、気楽にやっても全然良いと思う。登壇者の公募形式も、うまくいく方法を誰かぜひ試してみてほしい。
今回やって思ったのは、議論云々よりも、カンファレンスを開催すること自体の難易度が上がってしまったことだ。
自分のように法人を設立したり、多人数コミュニティで行っていない、思いついたときに思いついたことを野良でやっているタイプの人間には、どんどん敷居が上がっている。問題は食事だけではない、耳を疑うような様々な問題を起こす参加者が、無視できないほど増えてきている。
もし問題が起これば、会場を貸してくれている企業にも迷惑がかかるだろう。せっかく善意で貸してくれているのに、そこで問題が起こって、それが会場名付きでニュースにでもなれば申し訳が立たない。主催者コミュニティの中では、今後大きなカンファレンスをやるには、警備の依頼が必須になるかもしれないという話が出始めている。
ただひたすら Web の議論をしたいだけなのに、警備計画書を作らないといけないなら、それはもう俺には対応しきれないし、したくもない。
開催を諦めるか、完全招待制などで狭く開催するなど、身の振り方を考えないといけないだろう。それだって、まだ業界と繋がりの少ない人などをどうやって取りこぼさずに迎えるかなど、考えないといけないことは増える。
なので、これを一つの区切りと感じ、自分がどうやってきたのかを残しておくことにした。
このやり方が正しいとも全く思っていないし、改善が必要な点も色々ある。「自分はもっと上手くやれる」と思う人は、ぜひやってほしい。
白熱した議論を聞ける場が増えることを、楽しみにしている。