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3PCA 最終日: 3rd Party Cookie 亡き後の Web はどうなるか?

Intro

このエントリは、 3rd Party Cookie Advent Calendar の最終日である。

ここまで、 3rd Party Cookie との 30 年に渡る戦いと、 ITP 以降それが Deprecation されるに至った流れ、そして Privacy Sandbox の API について解説してきた。

最終日は、ここまでを踏まえて、来年以降の Web がどうなっていくのかを考えていく。

「Web 史上最大の破壊的変更」の意味

筆者はこのアドベントカレンダーの最初に、これを「Web 史上最大の破壊的変更」と言って始めた。

Web で破壊的変更と言えば、 API の互換性がなくなり、これまで動いていた機能が止まることだ。 ITP を経ているんだから、今更大した影響もないと思っている人もいるかもしれない。

しかし、今回「破壊」されるのは、そんな狭い範囲の話ではないのだ。その程度なら「こう壊れるから、こう直せばいい」と、一本の記事をいつも通り書けばそれで終わっただろう。

それを 25 日、オーバーして 28 日かけたアドベントカレンダーで、わざわざ背景から書いたのは、そんな生ぬるい話だと呑気にわかった気になっている読者への、警鐘の意図があった。

そして、ネットでは未だに「Google は~だから」とか「Apple はいつも~で」とか安い言説で説明した気になっている記事も多いが、問題の構造はそんな適当な解説で把握できるほど単純ではない。

そして、ここまで読んでもわかったと思うが、そもそもこれは「開発者だけの問題」では最初からない。

にもかかわらず、 Web エコシステムの準備は、全くといいほど整ってるとはいえない。

2024 年の Web

1% のロールアウトが始まれば、壊れるサイトは少なからず出るだろう。世の中には Chrome でしか動かないサイトは思った以上に多い。特に、社内システムのような、環境を固定しやすい場面では「ログインできない」「表示されない」といったわかりやすい破損が発見され、報告されるだろう。

こうしたサイトを炙り出し、まずは Reverse Origin Trials に登録させて延命させつつ、実態を把握するのが 1% のロールアウトの目的だ。その後の修正を CHIPS, SAA, RWS, FedCM などを駆使して自分で行う場合は、大体 1~2Q 程度で終わらせないと間に合わない。従来の UX が維持できない場合も多くあり、ユーザから「よくわからないプロンプトが出た」といった報告に対応する必要も出そうだ。

広告関連は、大手ならすでに Privacy Sandbox を調査しており、コストの高さと精度の限界をすでに見ているだろう。逆に、来年やっと Privacy Sandbox に手を出すようなところは、思った以上のコストと精度の限界に困惑し、見切りをつけてバレるまではとりあえず Cloaking などに逃げるといったことになるだろう。

混乱に乗じて、「うちは独自の技術で従来の精度を出せます」といった怪しげな Fingerprinting を売り出す会社がまた増え、一部は藁をもつかむ気持ちでお金を払ってしまうかもしれない。

また、法制度への対応も変わってくるだろう。そもそも 3rd Party Cookie がなくなればバナーはいらないといった簡単な話ではないが、情報の扱いのキーとしての Cookie がなくなったため、法制度側も改善が必要になるだろう。 Privacy Sandbox を利用している場合の各法制度への対応も前例がないため、不透明な部分が多い。特に、今回書ききれなかったが Global Policy Control が一体どうみなされるのかは、来年問われてくるだろう。

とにかく、 2024 年は移行の年だ。しかし移行するのは「プラットフォームレイヤ」の話だ。

2025 年以降の Web

2025 年になれば、 Reverse Origin Trials が終了し、「プラットフォームレイヤ」の移行は、成功かはさておき終わってはいるはずだ。(まあ、正直 Deprecation の延期を全くせずに進められるのかは疑問なので、完全には終わっていない可能性もあるが)

次に始まるのが「ビジネスレイヤ」の移行だ。

2024 年後半から徐々に、実際の「広告収益の低下」などといったビジネスへの影響が数値化され、分野によってはそこでやっと本格的に「問題」が浮き彫りになる。

良い悪いとは別に、広告が存在することで「無料の Web」いや「無料のインターネット」が成り立ち、それによってここまで広がってきたのは事実だ。

その梯子を外され、従来のターゲティングに依存したモデルでは収益が出なくなったメディアやサービスが、存続のためにどう舵を切るのかが問題になってくるだろう。

もちろん、ターゲティングができなくても、広告が出せなくなるわけではない。広告自体をターゲティングに頼らずに頑張るというのが最初の手だ。

3rd Party データがなくても、 1st Party データがあるなら、ある程度は対応可能だろう。しかし、そんなものを持っているのはビッグテックくらいだ。

データがなくても、コンテキスト広告や純広告の取得のために、コンテンツの質を上げるといった方向に進めれば理想かもしれない。質の悪いメディアだけが淘汰されれば、それはユーザにとっても良いことだ。

しかし実際には、ターゲットの情報を失ってとにかく派手な内容(エロ、コンプレックス、儲け話 etc)の広告を出す歯止めが効かなくなったり、全画面広告のような悪質なものばかり増える可能性がある。いや、もう増え始めてもいる。すでに「プライバシーを多少犠牲にしてでも、以前の Web の方が良かった」と思っている人もいるだろう。

低きに流れた時の最大のリスクは、 Ad Blocker が広まることだ。 Ad Blocker が広まれば内容の質に関わらず広告は消え、収益はなくなる。これは 3rd Party Cookie と比べものにならないくらい、取り返しのつかない状態だ。

Web はいまだに「広告」と「課金」の間の仕組みをほとんど見出せてない。 Coinhive のような仕組みは本来これをカバーできたはずだったが、早々に悪者認定され、以降の発展が止められてしまった。

「課金」や「投げ銭」も市民権が出てきているが、検索でたまたま見られるようなコンテンツにとっては絶望的だ。

間を繋ぐ事例として、例えば Brave の BAT がある。 Brave は Ad Blocker を持っているが、代わりに Brave 自体が出す広告を見れば、 BAT というトークンが付与される。これは換金もできるが、代わりに Web サイトに投げ銭できるのだ。このように、広告のマネタイズとそのマイクロペイメントを可能にするプラットフォームが上手く台頭してくれれば、もう少し活路はあるかもしれない。

それがなければ、残るのは行き倒れたメディアサイトと、勝ち残った課金サイトだけのインターネットだ。 Walled Garden が増えれば、「検索して辿り着けた Web」は過去のものになり、AI の学習ソースにもできないため聞いても出てこなくなる。(逆に「これについて知りたければ、続きはここ」と課金コンテンツの URL を出されるといった「AI への広告」は出てくるかもしれない)

「無料のインターネット」が終わって、そこにどのくらいのユーザが残るのかは、なってみないとわからない。

「終わりの始まり」の主語

いずれにせよ、ビジネスモデルがこの「破壊的変更」を乗り越えられなければ、 Web は大幅なシュリンクを免れないだろう。

ビジネスとユーザが相互を再起的に減らし合えば、それは Web というプラットフォーム自体のゆるやかな終わりを意味する。

12 日目のタイトルは「終わりの始まり」だったが、あれは「Cookie」の話だった。しかし実際に始まっていたのは「Web」の終わりの始まりだった可能性があるのだ。

もちろん、 30 年かけて人々の社会生活に根深く浸透しているため、「簡単には終わらない」と思うかもしれないが、それがいつまでも続くという保証は一切ない。

もし何か「やっぱりこっちの方が良いのでは」と、ちょっとでも思える代替が出れば、座を明け渡すのはあっという間かもしれない。それが何かはまだ見えてないが、プラットフォームの終わりなんてだいたいそんなものだ。

2024 年は、本当の意味で Web のポテンシャルが問われる年になるだろう。

意外と全く問題なく、これまで通りの Web が続くのか。

魅力が減り、ユーザも減り、「プライバシーに配慮された誰も使っていないプラットフォーム」になり下がるのか。

「Cross Site に Cookie が送られなくなる」などという現象は、全体から見れば小さな問題だが、バタフライエフェクトのように、大きな時代の流れを引き起こしている。

我々はそういう重要な分岐点にいるのだ。

Outro

2024 年 Q1 とアナウンスされていた Chrome における Deprecation の 1% ロールアウトは、 2024/01/04 になったというアナウンスが、このアドベントカレンダー中に公開された。

つまり、来週だ。

問題を認識するところから始めるには、あまりにも手遅れではあるが、それでも今これを書かなければ、後悔するだろうという気持ちでなんとか書き切った。

まだまだ書けなかった/書かなかったことの方が多い。問題の大きさから見ればあまりにも矮小かもしれないが、 Web が壊れるのを少しでも防げるよう、筆者が知っていることはすべてこのサイトで継続して発信していくつもりだ。

そして、 Web がこれからどうなるのか。この困難をどう乗り越えるのか。はたまた失敗し廃れていくのか。

しっかりとこの目に焼き付けていきたいと思う。

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