Dialog と Popover #1
Intro
HTML の <dialog>
要素と、 popover
属性、および関連する様々な仕様が標準化され、実装が進められている。
Open UI を中心に進められているこれらの改善は、多くのサイトで共通したユースケースがありながら、長らくミッシングピースとなっていた重要な機能だ。
もし今、同等のユースケースを自前で実装しているのであれば、適切な仕様を用いた実装に刷新することで、従来はほぼ不可能だった UX を提供できるようになる。
今回から、数回の連載形式で、これらの仕様がどのように標準化され、我々開発者はこれをどのように使っていくべきなのかについて解説する。
showModalDialog
Modal や Dialog と言われる UI の歴史は Web においても古く、ブラウザでは IE4 くらいのころに独自実装された window.showModalDialog()
が最初にあった。
後に仕様を起こして標準化し、互換のために他のブラウザも実装をしていた時期があるが、例えば Chrome は M35 (2014 年)で deprecate している。
- Intent to Remove: window.showModalDialog()
- Intent to Remove showModalDialog
deprecate された理由は、以下に書かれている。
- Disabling showModalDialog
- Dev.Opera --- Removing showModalDialog from the Web platform
特に Opera の頃の Mathias が書いたブログが非常にわかりやすい。
この API は、現在の Window 上に Modal として指定した HTML がレンダリングされる仕様なのだが、「同期」な API だったため、 Modal が開いている間「Window 側の JS の実行が完全に止まる」という、今となっては考えられないような仕様になっていたのだ。
このとき、 showModalDialog()
に渡した引数 passedValue
は、 Modal 側で window.dialogArguments
で取得でき、 Modal を閉じる際には window.returnValue
に設定した値が Window 側に戻り値として返り、そこから JS が再開する。
// Modal を開く側
// ここで JS が止まる
var returned = window.showModalDialog('./modal.html', 'passedValue')
// modal が閉じると値を返してここから再開
console.log(returned) // "returnedValue"
// Modal 側
// Window から値を受け取る
var passed = window.dialogArguments // "passedValue"
// Window に値を返す
window.returnValue = "returnedValue"
同期 API という技術的負債
確かに、 Modal は「同意の取得」などでよく使うため、ユーザの操作をブロックしつつ、値をやり取りできる API である必要があった。
また、 window.dialogArguments
を触れるということは、Modal 上でも JS は動いていることを意味する。つまり、 Window で止まっているイベントループとは別に、 Modal 上でもイベントループがもう一つ走ることになる。そして、その上で window.open
したり form を submit
したり、追加で showModalDialog()
することも可能だ。
今と違って IE4 の頃はタブブラウザですらなく、 1 Process 1 Window な時代だった(つまり、URL を別で開くと、Window がもう 1 つ立ち上がる)。これが、 1 Tab 1 Process なマルチタブブラウザになった場合、「ブロックする」といっても「何をどこまで止めるのか」を定義し直すのも難しかった。
かなり初期の API で、ろくに議論されないまま独自実装として始まったこの API を、互換性のために他のブラウザも仕方なく実装し、 HTML にも渋々現状を仕様として起こした、そんな API だ。この API のヒドさについて Hixie はこう説明している。
This API single-handedly makes completely unrelated parts of the platform significantly more complicated to implement, which leads to more bugs, which makes everything worse for everyone.
And to top it all off, it's not even a particuarly good UI. We have much better solutions in the works, too, like dialog.
この API のせいで、プラットフォームのまったく関係のない部分の実装が著しく複雑になり、バグが増え、すべての人にとってすべてが悪くなる。
その上、特に良い UI でもない。私たちは、
<dialog>
のような、より良い解決策も準備している。
— https://groups.google.com/a/chromium.org/g/blink-dev/c/xh9fPX0ijqk/m/8oPryGUsGPMJ
これを実装すると、今度出てくる新しい API(Promise や Mutation Observer etc) の実装をさらに複雑にし、複雑さが脆弱性につながってしまう懸念もあった。
そして、そこまで人気な API でもないため利用者も多くはなく、 UI も UX も別段良くなかった。端的に言えば、技術的負債だったわけだ。
ブラウザ実装者からの不満も爆発し、この API を長いこと抱えているより、より良い API を定義してユーザの移行を促しつつ、 showModalDialog
は deprecate していく。
その合意のもと進めていく先が、 <dialog>
だったのだ。