Intersection Observer を用いた要素出現検出の最適化
Intro
スクロールによる DOM 要素の出現などを効率よく検知するため、新しく Intersection Observer という API が追加された。
この API の使い方と、本サイトへの適用について記す。
要素交差(intersection)の検出
ページをスクロールしていく過程で、特定の DOM が画面に出現したことをフックしたいケースがある。
代表例は 画像の遅延読み込み であり、初期ロードでは画像の取得を行わずスクロールしていく過程で順次取得する手法である。
特に画像の多いページでは表示に必要なリソース取得のみに最適化でき、初期画面表示などでは効果が大きいとされる。
これを実装するのに必要なのは、「 <img>
要素が出現しているかどうか」であるが、本質的には「画面外にあった <img>
が viewport と交差したか」を取得することになる。
つまり、要素出現の取得 は、要素同士の交差取得 として汎用化し、その一例と見ることができる。
新しく追加された、Intersection Observe は「対象の親要素」と「対象の要素」が 交差(Intersect)したことを取得する API である。
従来の方法
まず、従来どのようにして要素の交差を取得していたかを振り返る。
要素の位置に関する API は以下のようになっている。
ただし、これは互換性の問題を多く含んでいるため、厳密には色々あるが、調べるのが面倒だったので単なる参考として載せる
先に全体図を示す。今回は上下方向にのみ注目する。
ページがどの程度スクロールされたかという値である。
基本は しかし iPhone には 要するに 4 つある。
よくある話だ。
body を親要素とすれば、そこからの offset 位置はドキュメント上の絶対位置と考えることができる。
これは、要素自体が持っている。
対象の DOM が、現在画面表示(viewport)上どの位置にあるか。
スクロールするたびに変わる値で、常に表示領域の中の位置になる。
これは、対象 DOM の ここまでを踏まえると、画面をスクロールし、画面の中に対象の DOM が入っていることは、以下のように判定できる。
この三つの論理和が満たされれば、どこかが表示されている。
もちろん、計算基準の親要素を変えれば、viewport 以外の要素でのスクロールによる出現にも対応できる。
上記の判定は、スクロールするたび、つまり onscroll イベントごとに計算すれば DOM の出現監視になる。
ただし、onscroll は発生頻度が非常に多いため、愚直にコールバックに指定してしまうと、ボトルネックになり Scroll Junk を引き起こす可能性がある。
対策としては、まずコールバックを実行するイベントを間引く throttling がある。
例えば、underscore.js の throttle() 相当のものや、Reactive Extension 系のライブラリを使うことで実現できる。
また、計算処理のみでコールバックを抜けるのであれば、 ここまでの API の値の変化を確認するデモを以下に用意した。
図
スクロール量(scrollTop)
document.documentElement.scrollTop
だが、互換モードでは document.body.scrollTop
を使う。
scrollTop
がないので、window.pageYOffset
を使うが、これは window.scrollY
のエイリアスになっている。
document.documentElement.scrollTop
document.body.scrollTop
window.pageYOffset
window.scrollY
絶対位置(offsetTop)
let target = document.querySelector('.target');
// target.offsetTop;
// target.offsetHeight;
// target.offsetWidth;
// target.offsetLeft;
相対位置(getBoundingClientRect)
getBoundingClientRect()
で取れる。
let rect = target.getBoundingClientRect();
// rect.top;
// rect.bottom;
// rect.height;
// rect.left;
// rect.right;
// rect.width;
表示判定
(0 < rect.top && rect.top < clientHeight) // 対象の上端は表示領域に入っている
|| (0 < rect.bottom && rect.bottom < clientHeight) // 対象の下端は表示領域に入っている
|| (rect.top < 0 && clientHeight < rect.bottom) // 上端下端も表示されてないがその間が表示されている
onscroll イベント
.preventDefault()
を呼ばないため、別エントリで解説した Passive Event Listener を利用できる。
Scroll & Position API DEMO
問題点
さて、ここまで見て来た方法には多くの問題があった。
- scroll event のハンドラが Scroll Junk を引き起こす可能性がある
- 全 scroll event での実施は回数が多いので、throttling (まびき)を行う必要がある
- サイズや位置を取得する API は Forced Synchronous Layout を発生させる
- API が分かりづらく、互換性も微妙で、単純に実装が面倒くさい
ここでは 3 に注目したい。
ここまでに紹介した、 この計算は同期処理であり、つまりブロックが発生する。さらにそれを onscroll など頻度の高いイベントの中で行うのは、スムーズなスクロール表示のためのブラウザの最適化を阻害してしまう。
そこで、この頻出処理をブラウザのネイティブ API として実装し、より効率良く実装するのが、今回紹介する Intersection Observer である。
Forced Synchronous Layout
scrollTop
, offset
, getBoundingClientRect()
などの呼び出しは、その時点での DOM の位置を取得するために Layout 計算を行う。
Intersection Observer
Intersection Observer は交点(Intersection) を監視し、指定した要素同士の交差が発生したら、イベントを発火する Observer である。
交点の検出処理は、ブラウザが内部で行っているため、前述のような onscroll 内での同期処理などは一切必要がなくなる。
逆を言えば、スクロール以外による交差の発生も一括して取得することが可能になる。
これにより、Scroll Junk の原因が除去され、効率良く実装することが可能となる。
API
コールバックとオプションを指定し、Intersection Observer Class のインスタンスを生成する。
生成した Observer に対して、任意の DOM 要素を observe()
メソッドで指定することにより、対象を監視する。
複数要素を同じように監視する場合は、同じ Intersection Observer インスタンスで、observe を複数回呼ぶことができる。
let observer = new IntersectionObserver((changes) => {
for (let change of changes) {
console.log(change);
}
}, option);
observer.observe(target);
callback
複数の DOM を監視した場合は、一つのイベントで複数の変更が取得されるため、コールバックの引数は監視した DOM の数だけ入ってくる。
一つの変更は以下のプロパティを持つ
プロパティ
内容
change.time
タイムスタンプ
change.rootBounds
root の
getBoundingClientRect()
change.boundingClientRect
target の
getBoundingClientRect()
change.intersectionRect
交差領域の
getBoundingClientRect()
change.intersectionRatio
交差している領域の割合
change.target
target
特に change.intersectionRect
および change.intersectionRatio
は、自分で計算するとボトルネックになりがちである。
第二引数には、オプションとして三つのプロパティを設定したオブジェクトを指定できる。
let observer = new IntersectionObserver((changes) => {
// callback
}, {
root: document.querySelector('.target'),
threshold: [0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1.0],
rootMargin: '10px',
});
observer.observe(target);
root
デフォルトでは、viewport を対象にした交差検出を行うことができるが、これはデフォルトの root が document 自身になっているからである。
root オプションを用いることで、任意の親要素内を指定できるため、例えば overflow: scroll
になった div の中の交差を判定することができる。
{ root: document.querySelector('.target') }
threshold
change.intersectionRatio
によって、交差している領域の割合を取得できるが、コールバックが呼ばれるタイミングが交差のタイミングだけでは、0% や 100% などあまり役に立たない値しか出ない。
これは、表示が 0 (表示されてない), 100 (全て表示されている) のどちらかしかないためである。
イベント発生頻度を増やすには、threshold オプションを使うことができる。
例えば、以下のように引数を設定すれば、交差領域が 20% 変化する毎にコールバックを呼ぶことができる。
{ threshold: [0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1.0] }
これにより、表示領域の変化に合わせたインタラクションも実装が可能になる。
rootMargin
画像の遅延読み込みなどを実装したい場合は、viewport を root として <img>
を IntersectionObserver で監視するだろう。
viewport 上に <img>
が出現したことを検出することで、そこで画像の取得を走らせることができる。
しかし、viewport 上に表示されてから取得するより、表示される少し前に取得を開始できれば、小さい画像なら空の <img>
すら出さずに済む可能性がある。
こうした場合は rootMargin オプションを指定することができる。
値は CSS の margin への指定と同じだ、例えば以下のように設定すれば、上下左右が交差する 10px 手前でイベントが発火する。
{ rootMargin: '10px' }
Intersection Observe DEMO
Intersection Observer を用いた、基本的なデモを用意した。
threshold を 10% にし、intersectionRatio を表示するように実装している。
また以下に Intersection Observer と、それ以前の API で、要素出現の検出を比較する DEMO を用意した。
こちらは、overflow: scroll
な div を親とする出現検出も含めてある。
本サイトへの適用
この機能を用いて、本サイトでも画像の遅延読み込みを実装するつもりでいる。
しかし、本サイトでは Service Worker や HTTP2 Push など他の最適化戦略も併用する予定であるため、検証がまだ追いついていない。
また、現状では最適化した SVG がほとんどであるため、画像の取得がボトルネックと見なすには弱い場合が多く、一旦見送ることにした。
将来的に最適化戦略が落ち着いたら、追記する。